大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成10年(ワ)3682号 判決 1998年9月21日

原告

破産者A破産管財人 X

被告

ナカオ株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

中元視輔

主文

一  被告は、原告に対し、別紙物件目録≪省略≫記録の土地及び建物につき、東京法務局江戸川出張所平成九年二月一二日受付第四七九九号根抵当権設定登記の否認登記手続をせよ。

二  訴訟費用は、被告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

主文と趣旨

第二事案の概要

一  本件は、破産者の被告に対する債務につき、その連帯保証人であった破産者が、自己の所有する不動産に被告のために根抵当権を設定した後破産宣告を受けたところ、破産者の管財人である原告が、破産者の右根抵当権設定行為を否認し、被告に対し、右根抵当権設定登記の否認登記手続を求めた事案である。

二  争いのない事実等

1  破産者A(以下「破産者」という。)は、平成九年八月五日、破産宣告の申立てをし、同年一一月一三日午後二時破産宣告を受け、原告が破産管財人に就任した(≪証拠省略≫)。

2  被告は、破産者が経営していた有限会社a組紐店(平成九年三月二四日に破産申立て、同年四月一〇日に破産宣告。以下「破産会社」という。)に対する売掛金一二〇〇万円について、同年二月四日に破産会社との間で準消費貸借契約を締結して、破産者を連帯保証人とし(≪証拠省略≫)、さらに、同日、右債権及び破産会社がこれまでの支払のために振り出した約束手形一三通の手形金債権(合計一五九一万六一九五円)を担保するため、破産者の所有する別紙物件目録記載の土地及び建物(以下、併せて「本件不動産」という。)に対して、極度額三〇〇〇万円の根抵当権設定契約(以下「本件契約」という。)を締結し、同目録第三番根抵当権設定欄記載のとおり、同月一二日受付の根抵当権設定登記手続をした(≪証拠省略≫)。

三  争点

(原告の主張)

1 本件契約締結の日が平成九年二月四日であるとしても、本件根抵当権設定登記は同月一二日付けで行われているから、被告が右契約締結の日を原告に対抗できるのは同月一二日である。そうであれば、破産者は、破産申立て(同年八月五日)の六か月以内である同年二月一二日に、被告との間で破産者にとって無償行為である根抵当権設定契約を締結したことになる。よって、原告は、破産法七二条五号により右行為を否認し、同法一二三条一項により、被告に対し、否認の登記手続を求める。

2 仮に、右主張が認められないとしても、破産者は、平成九年二月四日に本件契約を締結したが、その際、破産者には多額の債務があり、本件契約を締結すれば被告だけを優遇し、他の債権者を害することを認識していたのであるから、破産法七二条一号の故意否認に該当し、よって、原告は、破産者の右行為を否認し、同法一二三条一項により、被告に対し、否認の登記手続を求める。

(被告の主張)

1 被告は、平成九年二月四日に本件契約を締結したのであるが、右契約が否認されるべきか否かは、もっぱら当事者間で権利変動が生じた原因行為であった日はいつかという観点で論じられるべきであり、右根抵当権設定登記は、対抗要件充足行為にすぎず、右登記手続が行われた同月一二日に根抵当権の対抗要件充足行為にすぎず、右登記手続が行われた同月一二日に根抵当権の設定があったとすべきではない。したがって、本件契約の締結は破産者の破産申立てから六か月以内の行為ではなく、破産法七二条五号の否認の対象とはならず、本件根抵当権設定登記も同様に否認の対象とはならない。

2 破産者の破産会社は経済的には同一であり、破産会社の本件根抵当権設定行為は「無償行為及びこれと同視すべき有償行為」には該当しない。

3 被告は、破産者の右行為が他の債権者を害することを知らなかった。

第三争点に対する判断

一  破産管財人は、破産債権者の利益のために独立の地位を与えられた破産財団の管理機関であるから、破産宣告前の破産者の行為については第三者に当たると解されるところ、前記争いのない事実等によれば、本件契約締結の日は平成九年二月四日であるものの、本件根抵当権設定登記は同月一二日付けで行われているから、被告が右事実を原告である破産管財人に対抗できるのは、同日であると解される。

また、破産者が、破産会社のために、被告との間で本件契約を締結したことは、破産者がその対価として経済的利益を受けたことがうかがわれないことからしても、無償行為に当たることはいうまでもない。

そうであれば、破産者は、破産申立て(平成九年八月五日)の六か月以内である同年二月一二日に破産会社の債務を担保するため、被告との間で本件根抵当権を設定したことになるから、原告は、破産法七二条五号により、破産者の右無償行為を否認することができ、よって、同法一二三条一項により、被告に対し、本件根抵当権設定登記につき、否認の登記手続を求めることができるといわなければならない。

二  仮に、そうでないとしても、証拠(≪証拠省略≫)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、平成八年秋以降、取引関係にあった破産会社からの注文が増加しながら、手形による支払が少なく、売掛金が急増する状態が続き、平成九年一月末日の支払日直後において、被告の破産会社に対する債権は、約束手形金債権が一八〇六万四三四五円、売掛金が約一一〇〇万円となっていたこと、そこで、被告は、破産会社の代表者である破産者に対し、担保の提供を要求し、破産者、破産会社と被告との取引を継続するために、本件不動産につき本件根抵当権を設定したこと、破産者には、本件不動産以外に見るべき財産がなかったことが認められるのであり、以上の事実によれば、破産者は、右根抵当権を設定するにつき他の債権者を害することを認識しており、被告もこれを認識していたことが推認できるから、右根抵当権設定行為は破産法七二条一号の故意否認に当たり、原告は、右行為を否認することができ、よって、同法一二三条一項により、被告に対し、本件根抵当権設定登記につき、否認の登記手続を求めることができるといわなければならない。

三  そうであれば、いずれにしても被告の主張は採用できず、原告の請求は理由があるからこれを認容することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 木村元昭)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例